ラオス中銀、外貨不足の原因と対策を発表
内陸の桃源郷とも言われてきたラオスが今、深刻な経済苦境に陥っている。既に中国による「債務の罠」がアフリカ諸国やスリランカなどで長く指摘され、ここ数年はラオスについても指摘されていた。ご存じのようにスリランカでは首相が、「スリランカは今や発展途上国ではなく、破産国家だ」と宣言し、国民は特権層である政治指導者層の豊かな生活と巨額の財産という腐敗に国民は連日、激しく反発している。そして次はラオスかという懸念が高まっている。
華々しく開通した高速新幹線であるが、建設から運営まで中国丸抱えで膨大な債務は増えるばかりである。中国の悪評高いゼロコロナ政策で中国から投資はあっても出国制限で観光客の増加は当面期待できない。そして自前の鉄道さえない国にいきなり高速鉄道で国民生活にはとんと縁がない。従来、ラオスの観光と言えば、タイ経由がほとんどであったが、この鉄道、ビエンチャン止まりでタイの鉄道とは結ばれていない。そこにロシアのウクライナ侵攻によって経済苦境の深刻化である。
先にJETROは、「ラオス中銀、外貨不足の原因と対策を発表」というレポートを公表している。
それによると、「ラオスでは、5月8日ごろから首都ビエンチャンにおいてガソリンの供給が滞り、社会問題化した。5月19日現在も、主要なガソリンスタンドでは給油が可能なものの、休業しているガソリンスタンドも多くみられ、地方でも不足する地域が出ている。」という。この問題について5月13日、ラオス石油輸入販売大手・ペトロリウムトレーディングラオ:チャントーン・シティサイ社長は記者会見を行い、「会社の外貨調達不足により輸入が滞る中、国民のパニック買いが不足に拍車をかけた」と説明している。
また、5月16日には、ラオス中央銀行のソーンサイ・シッパサイ総裁が記者会見を行い、「コロナ禍から回復する中で、世界的なドルの価値の上昇やインフレの加速(2022年4月15日記事参照)により、外貨需給の不均衡が加速している」と説明。その原因として、(1)ラオスの商業銀行を介した外貨決済の割合は、輸入では33%のみである一方、輸出では98%と差があること(注1)、(2)公定為替レートと違法な市中レートに開きがあること(2021年9月24日記事参照)、(3)現地通貨キープが下落する中、外貨確保へ国民が殺到し、さらなるキープ安を招く悪循環が生じていること、(4)対外債務問題、を挙げた。本問題に対して、中央銀行は、金利の改正や国債の発行など、政策ツールを介して通貨供給量の管理を強めるとともに、違法な両替店への厳罰化を行うとした。さらに、商業銀行を介した外貨決済を増やすために、改正外貨管理法案を6月の国会に提出するなど、法整備を進めると説明した。国民には国産品を購入し、不必要なサービス消費を控えるなど節約節制に努め、外貨支払いを減らすよう」に国民に協力を呼び掛けた。
ラオス国民にとっては、バラ色の夢を振りまいていた政府・国立(中央)銀行の呼びかけは、失政隠しの無策な呼びかけとしか聞こえていない。穏やかなラオス国民が、ここに来ての経済苦境の打撃にどこまで耐えられるか。
なお、世界銀行はラオスの最新の経済レポートによれば、「2021年にラオスの対外公的債務残高がGDPの66%にまで拡大し、この債務返済に多額の外貨を必要とするためドルに対する急激なキープ安を招き、その結果、外貨での債務返済コストを高くしている」と、まさに債務の罠にはまったことを指摘している。中国のスリランカへの対応を見るに【取る者は取る】姿勢は変わらないだろう。
一方で中国はプーチンが胸を張るほど、苦境が透けて見えてくるロシアからチャンスとばかりに安価に石油を大量に手に入れいている。それらを債務の罠に陥った国への支援に回せば、中国の大国としての評判はよくなるのに、ラオスはそれが期待できない。スリランカの大統領はロシアに泣きついたが、それをするなら中国通じてのほうが、効果的なのは誰の眼にも明らか、である。あまりに中国とうまくやり過ぎたスリランカの政治指導層はそれができないのは、かれの不透明な蓄財への国民の反感に油を注ぐことにならないかと、恐れている。今や途上国の反感はロシアだけでなく、中国にも向いている。当然、カンボジアの政治指導層も慎重に中国と各国の関係を注視し、神経質になっている。
ラオスは債務残高がGDPの66%達するというのに、ラオス中央銀行によると2021年末の外貨準備高は12億6,300万ドルにすぎない、とJETROは報告している。
6月28日 NHKニュースでも給油所の行列を報じる
また、NHKは6月28日付けで「エネルギー価格高騰 アジアで混乱拡大 ラオスでは給油所に列」という見出しでラオスの様子を伝えている。記事では「世界的なエネルギー価格の高騰が続く中、経済基盤が弱いアジアの国で社会の混乱が広がっています。ラオスではガソリンが極端に不足し、給油所に長い列ができる事態になっています。東南アジアのラオスでは、先月上旬からガソリン不足が深刻になっています。ラオスは石油を輸入に頼っていますが、自国の通貨安が進む一方で、ウクライナ情勢などを背景にエネルギー価格の高騰が続き、調達が通常どおりにできなくなっているためです。
首都ビエンチャンにある給油所は多くが閉まっていて、営業している一部の店舗には大勢の市民がガソリンを求めて詰めかけています。」という。
動画:NHKニュース 6月28日 「エネルギー価格高騰 アジアで混乱拡大 ラオスでは給油所に列 」
掲載写真:JETORO 5月19日付ビジネス通信より