3月4日(土)、日本のNHKが「旧野党指導者に禁固27年の有罪判決」の見出しで報道するや、日本国内の主要メディアでも次々にカンボジアの政治裁判を記事に取り上げています。いずれもカンボジアの政府側と旧野党側の言い分を載せるといった形式的、欺瞞的な自己規制をすることなく、批判的な報道に終始しています。
NHKの報道では、「カンボジアの裁判所は3日、旧最大野党(救国党)の指導者に対して、外国の勢力と共謀して国家の転覆を企てたとして、国家反逆の罪で禁錮27年の有罪判決を言い渡しました。有罪判決を言い渡されたのは、カンボジアの旧最大野党 :救国党の共同創設者、ケム・ソカ氏です。ケム・ソカ氏は2017年に逮捕され、救国党もフン・セン政権によって解散に追い込まれました。
カンボジアでは、最大野党が解党されたあとに行われた2018年の総選挙で、与党がすべての議席を独占し、欧米諸国からはケム・ソカ氏の逮捕や最大野党の解党に対して非難の声が上がっていました。
ことし7月には、5年に1度の総選挙を控えていて、国際社会では民主主義の後退への懸念が広がっています。」との内容です。
一方、カンボジアの政府系広報メディア:Khmer Timesは、3月3日付け「元野党党首ケム・ソカに懲役27年の判決」という見出しで下記のような内容で報道しています。
元野党党首のケム・ソカは、「…カンボジアや他の場所で犯した外国人との共謀の罪で」27年の刑を宣告されたばかりです。
Koy Sao 判事は今朝、ケム・ソカ氏に判決を言い渡した。ケム・ソカ氏は、69 歳の元政治家で現在解散しているカンボジア救国党の共同創設者でした。
2022 年 12 月 21 日、副検察官のプロン・ソファルは、「2013 年 11 月 9 日、当時法廷で解散された 救国党(CNRP) の副代表だったケム・ソカが、オーストラリアのメルボルンの支持者に、米国の命令に従って色(カラー)の革命を通してカンボジア政府の転覆を企てた」と語ったと述べた。
同副検察官は、「オーストラリアの CBN TV によって記録されたビデオ クリップで、ソカ氏は、カンボジアで非民主的な手段で政府転覆を目的とした<カラー革命>を作るための計画を準備するために、(ソカ氏)支援していた外国の国家および外国のエージェントとの関係について告白した」と述べた。。
さらに同副検察官は、「1993 年から 2017 年 (彼の逮捕前) まで、ソカと元 救国党(CNRP)のサム・ランシー代表が政府に反対することを企てていた」と述べた。
「この事件の実際の証拠に基づいて、裁判所の検察官は、カンボジアでカラー革命を企てたという立証責任を被告人に課すのに十分な証拠を持っています」と同副検察官は訴訟理由を述べている。
以上がKhmer Timesの記事内容である。
要は、政府=検察官の主張を取り上げ、そのまま認めて裁判所が判決を下したということである。そうした理由付けはロシアや中国、北朝鮮などではそのまま掲載されるだろうが、所謂先進主要国ではカンボジア政府にとって、よくてNHK並みの報道内容である。米欧各国は今回の裁判を政治的なものと捉え、厳しく批判したり、事実在カンボジア各国大使館のなかには公然と懸念を表明している国がある。
なお、3月3日前後のKhmer Timesの報道では、旧野党指導者の裁判について報道は少ないか、ないという状況である。Khmer Timesの報道より先に国内メディアが記事として報道することはない、と見てよい。
掲載写真:旧野党指導者 Khmer Times