えっ!という感嘆詞を見出しに付けたのは、驚きというより<アホかいな>と呆れた感があったからである。まだ、こんなことをやってるの?という呆れである。
カンボジアの教育青年スポーツ省は1月14日、109,695人の候補者(受験者)のうち72,016人、つまり65.65パーセントが毎年の高校卒業試験に合格したと発表した。ところが、12年生のバカロレア(フランス式教育システムの試験)の結果発表から3日後の17日、400人の生徒が文部省の前に集まり、不合格結果に不満を持った後、教育青年スポーツ省・ハン・チュオン・ナロン大臣に試験書類の見直しを要求した。これらのFに認定された学生は、試験問題でうまくやっていると確信しており、不合格結果に不満を示したというわけである。彼らは昨日の午後2時から午後5時まで同省の前に集まり、結果に対する不満と不満を表明したという。
既にフンセン首相は、その公式フェイスブックで、失敗した学生が自動的に試験に合格することは期待できず、試験の準備には多くのお金とリソースが必要だと書き、「孫たちに来年の試験のために一生懸命勉強させてください」と述べている。結果は変わらないであろう。
バカロレアの合格・不合格の見直しは、国家の大計を見直す等しいことであり、首相の声明はごく当たり前のことである。だが、この当たり前のことがカンボジアの教育では長く行われていなかった。
筆者は15年以上前に日本の国費留学生試験の監督と採点を行った経験がある。
なぜ、日本人が監督するかというと当時の教育省の試験監督が信用できないからである。事実、4時間ほどで5人のカンニングを摘発、受験者番号のみを日本大使館の担当者に知らせた。また、そこから1/4に減った受験者の2次試験も監督した。英語試験では辞書持ち込み可能である。その後、採点すると英語ですら最高点が70点台、数学は30点台、歴史問題は日本で言えば高校世界史Aレベルより簡単だが、これまた簡単な選択問題である。最高点は30点台であった。次が第1問にあった。
・古代ギリシアの歴史の父と言われる人物名は? ヘロドトス(選択肢である)
担当者がその時こう言っていた。同じ試験で中国や韓国では90点以上が続出するんだが…、それでもカンボジアから国費留学生の合格者は30人ほど、大学4年生が一人、他は高専か専門学校の2年間であった。要は、試験問題の合格点だけでなく、国別にある「枠」人数に救われたのだった。
こうしたカンボジアの学生の学力の低さ、その理由は住環境(連日の熱帯夜)や教育システム(授業時間少なさ)にもあるが、小学校期からお金さえあればアホでもなんとかなるというどっぷりと浸かった腐敗の世界にある。
事実、10年ほど前にカンボジアの国立現役大学生に聞いたところ、「試験はカンニングが当たり前です。試験監督の先生が試験前に教室で受験生たちから一人5ドル集めます。そして教室から出ていきます。」証言者は女子大生で父親は公立高校の校長であった。彼女が試験を受けた時の合格率は92%、それでも成績の悪い者は500~1500㌦のお金をしかるべき者に渡して合格したという噂が出回っていた。この頃は、受験生の間には国家試験なのに試験前には試験内容のコピーが出回っていた。
教育の腐敗に政府は国家の危機を認識、教育改革が始まる
さすが、教育は国家の大計の危機という認識が政府上層部にあった。既に5年前ほどか、新たに任命された教育省大臣が強力なリーダーシップを発揮して先ずは上記のバカロレア(認定試験)の厳格化に取り組んだ。試験1か月以上前から連日テレビで「教育改革」を訴え続けた。そしてカンニング、賄賂撲滅に厳しく望んだ。その結果、合格率は前年の90%超から25%に急落した。また不合格者の救済措置として1か月後に再試験を行い、結果的に不合格者の半分ほどが合格者となった。合格者にも試験結果のランクがあり、Fが一般には不合格者である。このFは100点満点の30点未満である。
こうしたことを知っていれば、「教育改革」後でも大学入学資格を得るのは一般的に難しいことではない。大学生の学力が隣国のタイやベトナムよりもかなり低いというのは事実である。そうしたなかでも稀に優れた学生もいる。
不合格生の抗議、さすが地元メディアは英語版で扱わないニュース
だが、今回の抗議に集まった連中は、要は甘ったれた救済要求である。現にこれで昔は何度も救済されている。<教育改革>前の時代、国立医科大学で多数が卒業成績不良で不合格になったが、早速抗議デモが起こった。「医学生が成績不良では人の命に関わる」と大学は説得したが、結果的には全員合格で卒業となった。だから今だってカンボジア人一般はカンボジア人医者を信用していない。病院そのものを「安かろう、悪かろう」と見ている。
そして直近の2020年度のバカロレアはコロナ禍で中止となり、政府は高校3年生全員を卒業、大学入学資格を与えた。その前例もあって「溺れる者は藁をもつかむ」と不合格者が教育省前に集まったようである。「教育改革」前なら人々の同情を集めるだろうが、事ここにいたっては「甘ったれんじゃない」と見られているようだ。Khmer Timesの報道記事には、
《試験に不合格だった2人の学生、Khov SokHuotとHoeun Dalinは、ほとんどの論文でうまくいったので、100%確実に試験に合格すると述べました。
他の2人の学生、Heang SreyLeakとHeangSrey Measは、次のように述べています。
しかし、他の2人の欲求不満の学生、Thy SovanMonineathとMengReach Pisethは、「すべての試験問題でうまくいったと確信しているので、ドキュメントをレビューしてほしい」と述べました。
「(教育)省が審査の要請を受け入れない場合、我々は省の前で抗議する」とピセス氏は述べた。》
と書かれていたが、日本人の感覚から言えば、恥しい姿である。上手く行っても教科別にFが並ぶことはあり得ないでしょうに、と思ってしまう。また、仮にあったとすれば、あるとすれば、それこそ試験前から公正な試験実施と合否判定を要求すべきであろう。正直、カンボジアのバカロレアの結果については、地元メディアにいくつもの記事があるが、敢えて日本人には「重要ではない」と本サイトに掲載しなかった。そこにこの抗議である。
見っともない抗議のためか、この抗議行動を伝える英語版メディアはない
Khmer Timesも18日付でクメール語版のみで報道し、英語版にはない。「国家の恥」になると判断したのだろう。もちろんPhnom Penh Post(英語版)にも報道がない。
今年のバカロレアの結果については、同省は土曜日、114,187人の生徒のうち72,016人が12年生の試験に合格したと発表した。
この試験、学生は12月27日と28日に、地球と環境、地理、歴史、生物学、外国語、クメール文学、数学、化学、物理学、道徳公民の科目で試験を受けた。教育省のプレスリリースによると、1,753人の応募者がグレードAを獲得し、5,215人がグレードBを獲得し、残りはグレードC、D、Eで合格したという。これは、かなり低い学力でも合格していることになるので、教育改革直後の合格率25%から見れば、かなり甘い結果である、と思われる。
なお、昨年初めに「内務省(軍警察や地方自治体を統括する省)改革」が内務大臣の強力な指示で始まったが、コロナ禍のなかで中断した感がある。
掲載写真:教育省前に集まって抗議する不合格生や保護者たち 画像:Khmer Times